昼の暑さはどこへやら、夜になると月は涼やかで蟋蟀の声が降るようである。
魚屋で仕入れてきた小ぶりのむつの刺身の半分を
酒1 醤油1 砂糖1
の比率で仕立てたたれで和えてりゅうきゅうにする。
黒の塗りの片口に直接調味料を入れ、小さな泡だて器で混ぜた後、刺身を配し、何度か丁寧に天地を返した後冷蔵庫に入れて15分。
もう半分はしぼったかぼす、塩竃で買ってきた藻塩、お醤油でいただくのだ。
自分一人の食卓のためにこのような小さな仕事をすることが、週末の密やかな愉しみである。
さてそれぞれの味わいについて。
りゅうきゅうはいわずもがな特上である。しかしむつの個性がりゅうきゅうという調理法に敗北している。
醤油は乙である。通常刺身は醤油で頂くものであるから、刺身としての味わいが正規化される。むつのお刺身は、いやなところがなく、滑らかに柔らかく、よい脂を帯び、くどくないうまみがあるということがわかる。しかしどうにも凡庸である。
かぼすと藻塩。
これがよい。かぼすの、青い苦みを帯びたすっと立ち上がるような酸味と藻塩がむつの美味さを爽やかに引き立てる。
というわけで、もしむつの刺身があったなら
最初の二切ればかりは醤油でいただきむつの味わいを正規化し
あとはりゅうきゅうとかぼす+藻塩を交互にいただくのが楽しくよろしいのではないか。
さぞ日本酒が進むだろうと思うが、私のお供は新之助である。
こういう仕事を店で頼んだらいくらになるかわからない。
自炊とはほんとうによいものである。
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