小ぶりの三浦大根が安く手に入るというのは稀有なことである。その稀有なことが起こったので今週はおでんを仕込むことにした。大根を筒切りにし下茹でする。玉子は尻に画鋲で穴をあけ沸騰した湯に8分入れて水にとり殻を剥く。おでん種は宮城の練り物屋である蒲鉾の水野さんの「詰合せ 炉」が鎌万水産でお安く売っていたのでお越しいただいた。2017年4月のdancyuを読み返しウズラ玉子の魅力を刷りこまれたばかりだった私には、ウズラ玉子入りのさつま揚げが二枚も入っているこのセットはひどく魅力的に見えた。
何しろ三浦大根様を主役に据えたおでんだもの、他の配役も安物じゃあいけない。
そんなわけで、炉に入っていたちょっと上等な練り物の湯通しが終わったところで、大根、結び白滝、玉子を保温調理なべの底に敷き詰め、その上に魚肉練り製品と乾物の結び昆布、水で戻しておいた車麩を並べ、付属のおでんのたれを注ぎ、ひたひたまで水を張り、味を見る。
(少し足りない)
だし道楽を足したところ、実に理想的なおでんだしの味わいに到達した。
中火にかけ、沸騰したところで保温調理に移行する。昼寝から覚めたら別の鍋に移し冷蔵庫で保管、二日に分けていただくのだ。
そろそろ三浦大根も終わりだろう。そうなれば我が家のおでんもこれぎりとなる。青首や味一が悪いわけではない。かれらは実に素直で、味噌汁、炒め物などに十分な働きをしてくれる。しかしことおでんに使うとなれば三浦大根に勝るものはない。よく煮あがったものに箸を入れた際の柔らかさは滑らかで緻密な肉質を予感させ、口に運び舌で圧すると先ほどまでは確かに形を保っていたはずなのに未練なく解け、後にはただあふれ出た出汁の味わいだけが残る。
三浦大根よ、お前がこんなようだから、我が家のおでんはお前と共に始まり、お前と共に終わるのだ。