呉屋天ぷら店
最終日の朝飯は呉屋天ぷら店で買ったサーターアンダギーとカタハラウンブーを頂いた。
サーターアンダギーのような口に余るものは齧ることに気を取られるのが疎ましいので半分に切ってから頂くことにしている。上の前歯で食感を楽しみ、生地の美味さを舌でダイレクトに味わい、食べこぼしを気にせずによいといういいこと尽くしである。そんなように頂いたらなんだか深みのある味である。しかしどううまいかはうまく表現できない。これまで頂いたことのあるサーターアンダギーをスーパーのドーナツとするとこれはまぁちゃんとしたドーナツ屋のドーナツであるという程の違いである。スーパーが最大公約数の美味さに軸足を据えており、こちらは店の習いや好みに軸足を据えている。それぞれよいところがあるが私はこちらのサーターアンダギーが好きだ。もっというとこれまでにいただいたことのあるサーターアンダギーの中で一等好きだ。
そうしてカタハラウンブー。今思い返してもしみじみ美味い。具体的にはもちもちとかりかりが同居していてギリいい感じに調整した鹹味があって旨味と油じみたコクがあった。
旅行前に聞き書 沖縄の食事という本を読んだ。これは昭和初期の民草の食事の聞き書きである。サーターアンダギーとカタハラウンブー(本には「かたはらんぶー」とある)は
両方ともメリケン粉の揚げ菓子で、かたはらんぶーは塩だけのさっぱりした味で、白あんだーぎーともいい、さーたーあんだーぎーは砂糖と卵の入った腹持ちのする菓子である。(32頁)
皿に取ったたねを、なべのふちに沿って中へ流し入れるようにする。そうすると「かたはらんぶー(片側が重い)」という名前のとおり、片側は厚めに、もう片側は薄くぱりぱりに仕あがる。この薄いところがふちふち(ぱりぱり)しておいしいといって、みんな好んで食べる。(42頁)
というもの。サーターアンダギーもカラハラウンブーもどちらも正月に食べる祝い菓子のようなものなのだ。日常的に頂けるのは大変ありがたいことだ。
ところで旅先に連れて行っている春慶塗の菓子皿は1辺が13.5cmである。カタハラウンブーは観ての通り菓子皿からはみ出すほどにでかくおなかはみちみちである。うっかり他の天ぷらを買わなくてよかったと思った。
最終日なので朝一でチェックアウトする。前夜に衣類やら本やらパンフレットやら丈夫そうで日持ちしそうな土産やらをキャリーオンバッグに詰めておきホテル近くのコンビニから自宅に発送した。キャリーケースはホテルに預けておき空港に向かう前に買ってきた日持ちしないものやら冷蔵品やら特に繊細な品やらを詰め直して飛行機で連れて帰るという寸法である。
- 呉屋天ぷら店
- 月桃の花
- 首里城
- 玉陵
- 波上宮
- 辻スーパー
- 宮古そば 製麺所 SAIGA 那覇壺屋店
- 壺屋焼博物館
- 牧志公設市場らへん
- 黒島商店 海南店
- 那覇空港塩屋
- りうきうストア お手軽お供えセット
月桃の花
道すがら月桃の花が咲いていたので撮った。
首里城
さてまずは結局原因がわからなかったという2019年の火災の後復元中の首里城に参る。以前沖縄に来た時元気の首里城を見た覚えはあるが新しく得るものもあるだろうと思ったからだ。
あった。
総合案内所になんぞお土産があるかと思って気安く覗いたら、琉球時代から続く琉球菓子の店本家新垣菓子店のちんすこうが何食わぬ顔で売られていたのである。首里城からは歩いて6分とはいえ、や、これは行く手間が省けた。袋入りがいくらかは忘れたが手ごろな値段で売られていた。特別なことはわかってもらえないかもしれないが特別な気持ちで職場に配ろう。
一人旅好きということでレジのお嬢さんと話が弾んだ。お嬢さんは修学旅行とかち合ったことを随分心配してくれたが、実は修学旅行生向けの解説を盗み聞くのも一興なのである。まだ若い喃、お嬢さん。
とはいえ首里城は細い通路もあり中々の混雑であった。それでも待てば
こんな写真もものにできる。ところで今書いて気付いたが、礼を守る門とはなかなか美しい言葉である。
そしてあの頃よりも私は
木組みが好きになった。
2日目に行った斎場御嶽の最高神女・聞得大君の即位式で最初に詣でるのがこちらである。
やはり実戦的な城は見晴らしがいい。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』を観た私にはわかる。(同作は「「下手な大河ドラマより時代考証が正しい」邦画史上、最も考証学的に正しい戦国時代を描いたのは『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』説」等高い評価を得ている)
公園のように誰もが立ち入れるようになった敷地にほつりと置かれている城中最も格式の高い聖所、首里森御嶽。
どうも首里城は沖縄戦で破壊されたのを長い間かけて復元して2019年に漸う完成したところで火事にあったらしい。私ですらなんだかわからないのだから関係者はもっとわけがわからなかったろう。
宮大工の手すさび。
見晴らし台から何から随分石垣が上手にできているので感心して撮っていたら警備の方がそれは復元したものであるということともともとの石垣が見られるところを教えてくれた。
このあたりは大分なじませてあるが
この辺りなんか意外と大胆に継いである。
石畳の丁寧な継ぎも好もしい。
玉陵
それからバスで玉陵に行った。玉陵は琉球王国初代尚円に始まる歴代の王のお骨を納めた墓所である。
民草のための香台がある。琉球の信仰は拝み尊ぶ人を起点として眼前の空間に広がっているように思われる。
内部はこのようであるらしい。
波上宮
それから波上宮に行った。写真を撮らなかったわけではないが載せない。なんというか、沖縄という土地に全く馴染まない感があってどうも嫌な気持ちになった。2日目に見た斎場御嶽に据えられた石の四角い香台、あれこそが沖縄の、いや、琉球の信仰なのだ。
辻スーパー
ここらに辻スーパーがあり覗いたら狭いので品ぞろえは少なかったが総菜が異様に充実しており味付け加減を知りたいと思っていたヒラヤーチーがあったので買う。
帰ってから頂いた。なんというか沖縄の粉ものはおしなべて生地がめちゃめちゃうまい。そこにキャベツやらにらやら紅ショウガやらが入っておる。私はあまり紅ショウガが得意でなくどちらかというとその存在意義すら疑っている側の人間であるがこれを頂いて開眼した。紅しょうがは油じみたヒラヤーチーにおいてこそその爽やかな酸味辛味が生きるのである。
それから!
それからですね!
宮古そば 製麺所 SAIGA 那覇壺屋店
宮古そば 製麺所 SAIGA 那覇壺屋店に三度参りましたらですね!
会えましたよ!骨汁!
オワァァァー!やっと!やっと会えたね君に!
肉と!米!(なおご飯は少なめ)
こんなもん鷲掴みで行きますわ。
そりゃあもう、この写真で見るより十倍くらいうまい。どうですかこの美しい骨髄。軟骨も腱も筋肉もみな等しく煮込まれて身離れが大変よい。一般的には骨を両手で持ってしゃぶるのは行儀がよろしくなく勇気のいる所作であるがここではそんな慎みは打ち捨てたほうがよろしい。隙間の肉、骨端にまるくついている軟骨、全てが美味いのだから。
というわけで力と技の限り頂いた跡地がこちらである。なお三度と言ったのは実は昨日も詣でたが臨時休業だったからである。ダメかと思っていたところに巡り合うと殊更にうれしい。この美味さを勧めてくれた以前沖縄に住んでいた知人に心からお礼を言いたい。
お店の人と少し話をした。2日前に来たことを覚えていてくれて、宮古そばも美味しかったこと、骨汁も大変美味しかったことを伝えた。Wikipediaによると骨汁は沖縄そばを作る際の出汁殻の再利用で、スープのベースは鰹節とのこと。ただこの店が骨汁をどう仕立てているのかは知らない。
壺屋焼博物館
佳い肉と佳いスープでおなかを満たして頗るご機嫌且つ元気になったので壺屋焼博物館に向かう。途中のもちの店やまやできび餅、ナントウ餅、紅芋ムーチーを買った。
壺屋焼博物館では
豚の脂身を煎って出てきた豚脂をためておく壺 アンダガーミや
塩を保存しておくマースガーミなどのスケール感を知ることができた。
カラカラという安定性のよさそうな酒器も風情があった。
壺屋焼の様々な技法の紹介があり面白かった。これは線彫。
ろくろを回しながら鈎状の鉋で刻み目を入れる飛び鉋という技法。
みんな大好き掻き落とし。
タックワーサー。貼り付けるという意、泥を張り付け盛り上げる技法。荒々しくて遠慮がなくてサイコーだ。
佳いものをたくさん見ることができた。
牧志公設市場らへん
それから牧志公設市場らへんに戻り、山城こんぶ屋で昆布とメンマ(筍)の繊切を買ったり山城こんぶ屋の方に「クーブイリチーの味を一発で決められる調味料とかないですかね」と無茶ぶりして教えていただいた魔法のてぃーあんだを販売している乾物屋を見つけるなどした。帰ってから豚バラ肉の薄切りと人参繊切と干し椎茸と昆布とメンマを炒めて魔法のてぃーあんだで味付けしたらマジでうまいクーブイリチーが仕上がったので皆さんも山城こんぶ屋で昆布とメンマを買うのであればあわせて魔法のてぃーあんだを買うとよろしい。甘味とうまみが非常に良いバランスで濃い目に配合されており、クーブイリチーの味を素人配合から数段引き上げてくれる。
後は両親への土産に平田漬物店のらっきょうを買ったり
黒島商店 海南店
黒島商店 開南店で予約していた月桃餅を引き取りついでに醗酵飲料「みき」を買ったりした。
月桃餅は紐が赤いのが紅芋、青いのが黒糖、白いのがプレーンである。電子レンジで温めればやわこくなるとのことだったがこんなもの蒸さずにおれようか。家に帰って蒸したら蒸しすぎて葉っぱにはっついてえらいことになった。少し待ったら種が落ち着いたらしく綺麗にはがれるようになった。沖縄のもち米を使った菓子は概ね餅粉をこねて蒸したものである。搗いていないので伸びることなくもちもちしておりながら歯切れがよい。といってすあまの類の蒲鉾みたような素っ気ない歯ごたえと違いこしがあるのが独特である。
みきは物分かりがよくこざっぱりとした未然の甘酒といった風である。みきは神酒の意でもとは口噛み酒とのことだが現在は乙女の口を経ずに米を発酵させたものや米と麦芽を炊いたものとなっているようだ。琉球新報に研究記事があり非常に面白いので参考にされたし。
他じらんば屋近くの八百屋で銀バナナを買ったりしてようよう気が済んだのでホテルに戻りキャリーバッグに荷物を詰め空港に向かった。
那覇空港塩屋
オキカを払い戻し、チェックインし、塩屋でソフトクリームを頂く。
色んなフレーバーの塩があったががあまり感動はなかった。
りうきうストア お手軽お供えセット
帰ってから頂いたりうきうストアのお手軽お供えセットの味わいについて。
かすてらかまぼこ、かまぼこ、昆布、ごぼう、三枚肉という布陣。かすてらかまぼこは卵焼きと蒲鉾の中間、甘やかで魚肉らしい歯ごたえがありながら玉子焼きのようなぽくぽくした食感もありよいものである。聞き書きによると昭和初期は自家製が当たり前だった蒲鉾もこしがありうまい。三枚肉はこれまで自分が試行錯誤してここまでしかたどり着けないと思った角煮と同じ味わいで、あっこれでよかったのかと腑に落ちた。自分は圧力鍋で蒸して脂を落とした後保温調理なべで味を入れているのだが、どうも味の入り方が浅いように思っていた。しかしそれは長崎あたりの角煮辺りの作法を目した場合の話で、市販レベルの三枚肉には既に到達していたのだ。昆布も牛蒡もそして三枚肉も魔法のてぃーあんだでよい味に仕立てられそうなので今度炊いてみようと思っている。
一連のブログ記事で名前をあげた店は概ね佳い店であると思っていただきたい。合わなかった店は書かなかった。
佳い旅だった。