即興厨房

大船市場で野菜を大量に買い込んでええ感じのお総菜を一週間分作ってはブログに記録する人です。器は骨董屋でこつこつ集めたぐい飲みやお猪口です。美術展、本、たまの旅行も記事にします。好きな動物はチー付与のどんぐりです。

鎌倉散歩 豊岡鞄のトートバッグ、ジラソーレで買ったアール・デコのグラスボウルと加賀ゆびぬき

先月の散歩で見つけた骨董屋さんを再訪しようと鎌倉に出かけた。

予報では一日雨、出がけも肌寒かったので用心して厚手を羽織ってきたが、家を出るとほどなく日が差して暑いくらいになった。

しかし雨になれば急に寒くなるだろうと踏んでかさばる服を鞄に入れて駅に向かった。

 

連休直後の鎌倉は小町通をまともに歩ける程に人が少なかった。

郵便局に用事があった序にメルカリの郵便物を風景印で出してもらう。

段葛を横断して御成通りに向かい、メゾン・ド・ルルでシュークリームを一つ買った。

「おやつに食べるので簡易包装でいいです」

店を出て歩きながらマスクを外し無思慮にかじりつくと中のカスタードがあふれ出た。

うまい。

このシュークリームは本当なら丁寧に入れた紅茶と一緒に家で落ち着いて頂くべきものだが、たまにはこんな乱暴もいいだろう。

唇を拭いた紙袋を丸めてポケットに突っ込んだ。

向かうは公文堂書店である。

最近ツイッターでダンテの神曲の一場面を切り取った絵画を見た。非常に関心をひかれ、いい機会なので神曲を読もうと思った。

しかし神曲なので当然翻訳はいくつか出ている。調べたところ、講談社学術文庫のが一番良いとの託宣を得た。

しかし定価だと一冊1700円。三冊組なのでまともに買えば5000円を超える。

メルカリを手繰ったところ過去出品されていた履歴はあるが現在の出品はない。

それで扱っていそうなリアル店舗を頼ろうと思ったのである。

しかし公文堂書店にも在庫はなかったのであきらめ、ゆるゆると御成通りを戻った。

途中の骨董屋でカトラリーの在庫を尋ねたが、扱いはないとのことだった。

 

ふと御成通りにあるかばん屋に目が留まった。

豊岡鞄とある。

数年前から存在は知っていたが立ち寄る気持ちにならなかった店である。

急に気になって入ってみた。

店内を流し見していたら、大きめのトートバッグに急に心を鷲掴まれた。

正面

shop.artisan-atelier.net

1万5400円。外装は樹脂加工の頒布、持ち手が革。店の人に声をかけ子細に見せてもらう。店員さんから、豊岡市は1000年も前から柳行李の生産地で天皇に納めたこともあること、明治になって西洋鞄の生産を始めるようになったこと、しかし下請けばかりで長く無名であったこと、それを今治のように生産地として名を上げようとして様々なメーカーが合同で立ち上げたのが「豊岡鞄」であること、この鞄はBERMESというドイツのメーカーのものだが豊岡市がライセンスを受けて生産していること、BERMESも1919年創業の100年の歴史のあるメーカーであることなどの説明を受けた。

ドイツのメーカーの品を日本が製造という点でさらにヤバイ。

もう8割方買う気になりつつ、自分がなぜトートをやめてリュックに切り替えたのか脳内で理由を模索した。切り替えた時には理由があったかもしれないが、今となっては思い出せない。カメラポーチが入るかを確かめた。がっつり入り、さらに余裕がある。鞄の中にはボトルホルダー。折り畳み傘は外のポケットに入るな。中にも外にもポケットが多いな。

わかりました。買いましょう。

 

その後カトラリーを求めて丸七商店街のフニクラに寄ったが子どものころ見たような昭和中期以降の日常使いばかりだったので見送った。游古洞は定休日、ミルクホールとmom&popには扱いがなかった。そのままなんとなく八幡宮近くまで行って、シャッターが半分閉まっている店の前に人が数名集まっているのを見つけた。

人の中心には箱があり、業務用の器が重ねて入っていた。

箱には、ご自由にお持ちください、とある。

器を補充しに来た男性に

「どこかの店が閉店したのですか」

と聞いたところ、

「ええ、うちが」

と言った。

不用意に悪いことを聞いた。奥にある店はそういえば小さな料理屋であったような気がした。しかしほとんど印象がない。

「二つ貰っていっていいですか」

「どうぞ、いくつでも」

そうしてもらってきたのがこちらの土瓶蒸しになる。

取っ手に使い込まれた風情が残るが、全く問題のない良い状態の器である。

有難いことだ。

 

八幡宮には寄らず、そのまま段葛を駅に戻った。鎌倉あきもとで甘酒を頂き、緑滴る大巧寺を抜けて、ようやく骨董屋ジラソーレに向かった。

雨なので前回店の前に出ていたあれやこれやがない。屋根のあるところにはグラスなど品物が並べてあるので、営業中ではあるようだ。

扉を開けた。店主には顔を覚えられていたようだ。靴を脱いで上がり、前回求めたデザートグラスに合うようなカトラリーの扱いがあるかを尋ねた。カトラリーはいくつか家にあるという。

「じゃあ多分来月くらいには来ると思いますので、そのころまでに気が向いたら店にもってきていただけますか」

それから店内を見せてもらった。店主が奥から素晴らしい蛍光のウランガラスのデザートグラスを出してきた。よい品だが恐ろしくて値段を聞くことができない。そもそも自分はカトラリーを買いに来たのだからガラスの器など見てはならない。しかし眼福なのであれこれつい眺めてしまう。

そういえば店主の好きな香水のブランドを再確認しようと思ったのだった。尋ねたところCOTYとのことだった。

買うまい買うまいと念じつつ検分していて棚の上に小さな紙箱を見つけた。

指輪のような丁寧な細工物がいくつか入っている。

指ぬきだという。

裁縫など全くしないのだから買ったところで無用の長物である。

無用の長物となることは承知しているが、見過ごすにはその針目があまりにも美しかった。

買うのをあきらめるために値段を聞いた。

「1つ100円」

バカバカしい値段だった。あまりにバカバカしいので5つ買ったわけである。

帰ってから調べたら加賀ゆびぬきであった。

 

その後デザートグラスの入っている箱を買うつもりなく眺めていたら、アール・デコ調の鮮やかな水色のデザートボウルが目に入った。

ラリックを思わせるすりガラスの加工が非常にまずい。何よりこんなデザイン、見たことがない。

店主によると、8つ揃いで出たものを仕入れてすぐに飲食業者に誤って6つだけ渡した、残りの2つが出てきたのを今日店に並べたばかりだという。

「でもお高いんでしょう?」

「1つ2000円」

2000円。

ああ、わかりましたよ、買いましょう。

「1つ残しても仕方ないから、2つで3000円で買わないかい?」

ああもう、くそったれ、商売上手め。

 

そんなわけで、デザートグラスのためにカトラリーを揃えてやるだけのつもりが、まんまとアールデコのグラスボウルを2つ連れて帰る羽目になったのである。