まだ世界が未知に満ちていて、旅行が探検だったころ、旅行記と幻想小説は時に区別をつけがたいものであった。幻惑的な事象に満ちた記録は、二重三重の意味で読み手を異界に引きずり込んでくれる殊の外の娯楽であった。
WEBマンガサイト「くらげバンチ」で『奇界紀行』の連載が始まった。あのクレイジージャーニーにも出演した(といいながら名称から想像される以上のことはよく知らないのだが)写真家佐藤健寿による『奇界紀行』なる写真集を原作としたマンガである。旅行ガイドや外務省の海外安全情報では立ち入らないよう指示され、写真を撮ることさえ禁忌とされているような、つまり一般旅行者には永遠に未踏の地となる、しかし同時代に確かに実在する場所。遠い国のリアルタイムを動画と翻訳ツールで容易く知ることができ、頼んでもいない絶景情報が休みなく鼻先に押し付けられ、新型コロナと円安でハードルは上がったもののほとんどあらゆる国を旅行可能であるかのように錯覚できる現代だからこそ、アクセス先から抜け落ちる場所。
それが写真家佐藤健寿のいう『奇界』なのだろう。
『奇界紀行』の漫画化には、膨大な資料を忠実に描き出す画力と、原体験を丹念に追跡した上で独立した物語として成立させる構成力が不可欠だとおもわれるが、漫画の君塚祥は、わかりやすく安定感のある作画、追跡しやすいコマ運びで、ものすごく読みやすい作品に仕立て上げている。
何より、写真家サトウケンジの描き方がものすごくよい。特段外連味のない造形であるにもかかわらず、その表情・言動から、サトウケンジの、リスキーだが幻惑的な場所に魅力を覚えることに躊躇いを持たない不穏な人間性がありありと見て取れる。
サトウケンジが自らを贄に奇界に傅いて得た精髄・または沈殿・または上澄み、これから月に一度、ありがたく押し頂くとしよう。
一言でいうと
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