春画ールさんは春画の偉い人である。東に撮影禁止の春画があると聞けば訪ね懸命に脳に焼き付け、東に一般公開していない史料があると聞けばツイッターで閲覧のつてを探し、心打つ春画があればツイッターに放流し、安からぬ骨董の性具を惜しまず人に触れさせ、変体仮名の猥語をはきはきと読み上げてゐる。
そんな春画―ルさんが春本の面白さについて語るイベントが開催されるというので迷わず行ってきた。
膠淫水の肉筆春画や張形セットもあるよ!
会場は大井町の喫茶店、開催は19時から21時、会費はたったの1200円。ドリンクはアイスティー400円、前菜プレート1000円、あとはいくらかわからんがアルコールドリンクがあったと思う。10分ほど前にはこのイベントを心待ちにしていたであろう紳士淑女で会場は一杯になった。
会場の一角に春画ールさんの愛蔵本が陳列してある。春画ールさんにオススメを聞いたところ、
風俗史として面白かったのが
よばいのあったころ
高価なものだということで
を勧められた。
よばいのあったころについては性風俗に関心を持っていたころに読んだ記憶があったので春画名品選をお借りして閲覧する。ボストン美術館所蔵品展が開催されることがあってもこれら春画はまず来ないだろうし、またボストン美術館に行ってもこれら春画を見ることはできまい。なるほど貴重なものである。
鳥文斎栄之の画巻、一男二女図、一男十女図が大変よかった。
講座は春本のスライドを春画ールさんが解説するという形で進んでいく。
枕として、表ざたになっていないがやはり描いていたという夢二の春画について。
男女が野合したり、跪かせて咥えさせたり、また避妊具を装着したり、女性が看護服を着ていたり、そういう場面がさらさらとあの柔弱な筆致でひっそりと描かれている。
春画―ルさんによると、湿度の高いしなだれた女性が夢二好みだったんであろうとのことである。
その後は今回の本題、繪本おつもり盞のライブ解説である。
あらすじは、
子に恵まれなかった商家の夫婦が神仏に子授けを願ったがそれぞれ望んだ性別が異なっていたので男女の双子をはらんだ。しかし初産の双子は疎まれたので夫がひとりにしてくれと頼んだらあら不思議男女の胎児は神力で合体し美しい顔立ちの一人のふたなりとして生まれ出ることになった。男女と書いておとめと名付けられたその子は女として育てられ男と付き合わずともいぶかしがられないだろうとのことで16にして地方大名の大奥に入る。そこで姫の臥所に侍ったからサァ大変、姫が腰を摩れというのでやさしく摩りながら姫の美しい面立ちを見ているとおとめのおとめが生え立ち始め最初は殊勝にも腿で挟んで隠そうとするがそのうち辛抱たまらんくなり姫も乙な気分になったもんだからおとめは唾をつけた指で姫の新開で指人形を始めついには男より立派なおとめのおとめを痛がるところに挿入し辛抱してればそのうちよくなるといっているうちによがり始めアレアレぬらぬらの大合戦、こうなると止まるもんではなく毎夜毎夜励んで居ったら当然露見しおとめは宿下がりすることになるがふたなりであったことを知った年寄りが小間物屋の張形が売れなくなったのはさてはおとめのためであったか、そうと知っておれば自分もいたしておくんだったと惜しむ始末。さておとめは実家に戻るが放蕩で家を追い出された父親の甥つまりおとめのいとこが下宿中、これがなかなかの色男、おとめの美しさに悪心を抱きおとめの部屋の本棚に春本をわざと置いておとめがつい手にとったところにいとこ同士は鴨の味とわかったようなことをいい指人形をしかけ盛り上がったと思いきや突然おとめが男気を出してこちらがけつをやろうかと言い出す始末、甥は慌てて俺が受けると痛いばかりだが俺がお前に入れればどちらもよくなると尤もな説得をして男女の和合をいたしたところ大変体の相性がよかったものだから仲人を立てて結婚し子にも恵まれ末永く幸せに暮らしたという、
突然のリバ→さらにリバ→大団円
というお話である。
春画ールさんによると、ふたなりを扱った春本は時代的には珍しいとのこと。また出産シーンががっつり描かれているのは現代のエロ本ではありえないのではないかとのこと。最近のハイエンドなエロ漫画では着床も出産も苗床も産卵も珍しくはないが、一般向けのAVで出産はつゆほども出てこないと思われるので確かに今エロとは異なっている。また春本は本文のあらすじと挿絵の内容が異なっていることが多く、この繪本おつもり盞でも本文では甥が部屋の棚に置いていた春本をおとめがつい手に取ったという描写であるが挿絵では甥が春本をがっつりおとめに差し出している。春本では挿絵画家が本文を無視して自分の理想のストーリィを挿絵で展開している場合があるので挿絵の中にある文章をよく読まないと挿絵の意味がわからないとおっしゃっていた。読んだら読んだで話の筋はもっとわからなくなりそうだが、一冊で2つの物語を楽しめると思えばお得であろう。また江戸時代は作品中で商品を宣伝することが多く、同作でも絵師の師匠歌川豊國の春本色道三つ組盃の宣伝が普通にブッ混んであるとのこと。変体仮名が読めればまだ活字化されていない春本を二倍三倍に楽しめると予感させる良い講座であった。
ここからさらに、江戸時代、ふたなりなどの性器の異常はどう遇されていたか、という話になり、陰核肥大の女性や重度の包茎で排尿すらままならず婚姻不可能とて僧侶になった男性を華岡青洲が手術で治療したなどのエピソードについて「医聖 華岡青洲の偉業」からの解説があった。いずれも、性器の異常を持っていると生きづらく、結婚などの人生の選択肢を閉ざされることになるとのことであった。
なお、張形売りの小間物屋については菱川師宣の「床の置物」の挿絵を引いたり、いとこ同士は鴨の味の用例として「絵本笑い上戸」の挿画を引いたり、楽しい寄り道も盛沢山である。この絵本笑い上戸の挿画は近親姦をモチーフにしており、春画ールさんが、参加者に性被害に遭った人がいないか、聞いただけで不快になるかもしれないとしきりに気遣っておられたことが印象に残っている。
10分ほどの休憩の後、今度は三代豊國による廓の日常を描いた「くるわのあけくれ」という春本の版下絵についての解説である。出版を目的として描かれたものであろうが版下絵が残っており春本も見つかっていないので何らかの事情で出版が取りやめられたのであろうとのこと。こちらは吉原遊郭の一つの屋敷の遊女の生活を描いたものであるが、遊女の化粧や食事、入浴などの日常を描きながら一方で避妊のためにへその周りに灸をすえたり流そうとして腹を叩いたり陰部に棒を差し込んだりしているところも包み隠さず描かれている。廓に来た男性は遊女の体がいくら交わっても妊娠しない魔法の体と思っていたかもしれないが、実際には一昼夜7・8回も交接すれば当然妊娠し、堕胎のためには母体を痛める堕胎薬より胎児が育ってから胎児を差薬で殺して引き出すほうが合理的とされたとのこと。おさめかまいじょうには廓の女を管理するための方法が載っており、拷問も当然記載があるとのことだった。
さてさらに10分の休憩の後はお待ちかねの膠愛液の肉筆春画とりんの玉含む性具の展示である。骨董屋でもなかなか表にはおいていない、博物館でもあまり見ることはできず見ることができたとしても触れることはなかなかできない水牛の角の張型一そろい、これを楽しみに行ったんである。
明治30年ごろのものだそうだ。すべて水牛で作られている。水牛の理由は、水に強くよく温度を通すためという。湯を含ませたわたをうちに入れ温めて楽しんだとか。また張形にはひも通しの穴が開いているが、女性が腰に装着して竿役になったり、自身で致す場合かかとに良い角度で装着するためであったとのことである。
上から、指にはめて女陰をくじるための張形。正式名称不明。
その下、真ん中の列にあるのはりんの玉。女陰に挿入し致すと性感が増すとのこと。降ると軽やかでかわいらしい音がする。
りんの玉の左右にあるのはおそらく海鼠の輪。男性器にはめ女性の性感を高めるために使われれたと思われる。
その下にあるのは分離式兜型鎧型と一体式兜型鎧型。
こちらが鎧型。
鎧型は男子が装着することでより女子に快楽を与えることができるとか。いちいち縛らなくていい肥後ずいきのようなものか。
御本尊の張形。
こちらは先も述べたように竿役用自慰用に加え男性器に装着するという使い方もあるそうである。下部にひもを通すための穴が開いている。
次は単品の張形。
こちらにはひもの穴はない。
あとは千代さんのりんの玉である。
千代さんが好きな人に持たされて密会の度に持参していたのではないか、はたまた若いころに贈られたものを結婚後も良人との大事な思い出として保管していたのではないかなどと考えるとなかなか乙なものであるな。
男性器に装着するタイプの道具は、やはり肌に触れる部分がなめらかでないと用だたないだろうと思い覗いてみたところ、相当細心に整えられているようだった。
肉筆春画は、春画展で撮れなかった膠淫水を撮らせていただいたが、局部アップ写真なので公開は控える。
全体として、知的好奇心にあふれた、大変な探求の場であった。過去の性の在り方から今の性を考える。男女の在り方、性の取り扱われ方、そのようなジェンダー問題を性の最前線の過去の記録である春本から読み解いていく、それが春画ールさんのライフワークなんだろう。
あと会場に演舞で有名なまーさんがいらした。二回も握手をしていただいた!ヤッター!
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