即興厨房

大船市場で野菜を大量に買い込んでええ感じのお総菜を一週間分作ってはブログに記録する人です。器は骨董屋でこつこつ集めたぐい飲みやお猪口です。美術展、本、たまの旅行も記事にします。好きな動物はチー付与のどんぐりです。

【三泊四日の】冬の金沢一人遊び【二日目】

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朝風呂を済ませ、まずは朝食である。

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金沢白鳥路ホテル山楽の朝食は大変美味しかった。左手下から時計回り内側に向かって、ホタルイカの干物、のどぐろ干物、金沢おでん、加賀車麩の卵とじ、自家製竹筒豆腐、とろ湯葉の蟹あんかけ、自家製切干大根、5種のソーセージとスクランブルエッグ、なめこおろし、温度たまご、能登いしる鍋である。干物は七輪であぶることができる。ホタルイカは中のわたの旨味がすさまじく日本酒でもないとやってられない。のどぐろは小粒ながら身離れよく脂がのっていて味わいが上品である。金沢おでんは大根とお麩がよい。車麩の卵とじも好もしい。豆腐も手堅いおいしさであるが一度で気が済んだ。とろ湯葉は車麩あんかけとキャラが被っていて結果印象が弱いものとなってしまった。赤丸の入った切干大根が甘辛で妙にうまく三日間リピした。煎り玉子は凡庸で一度で気が済んだ。ソーセージは皆よい。なめこおろしはおろしにほんのり鹹味があってバランスがよかったが一度で気が済んだ。いしる汁は鶏もも肉で悪くないのだがこれもなぜか印象が薄い。温度玉子は温度玉子。

いい感じに満腹になったところで金沢城に向かった。

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普段からこうなのか、日が差したりみぞれがふったり雨が降ったりあられになったり金沢の天気というのは想定よりはるかに忙しいものだ。

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一旦宿に戻ってから足軽資料館に行った。足軽というと戦国時代にえらい軽装で前線に立たされていた人々という印象があったがつまるところ下級の地方公務員であったことを知った。

それから武家屋敷野村家に行った。こちらには声桶なるものがあった。なんでも鶯を納めてその鳴き声を楽しむものだという。暗い中に閉じ込めるのはどうかと思ったが、人が見えるとあまり鳴かないのかもしれないとも思った。各部屋の腰板にそれぞれ絵が描いてあったり贅を尽くした拵えは見ものであった。

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ぎゅうぎゅうに要素が詰め込まれた庭

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犀川に架かる橋を渡った。

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調和のとれたビル群のある通りを抜けて

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MAME ノマノマでマスカルポーネチーズ+塩豆餡のモナカを頂いた。公式サイトには外にしか椅子がないようなつれないことが書いてあったが実際にはモナカ受け取り口の向かいにストーブとベンチのある小さな部屋が設けられており雪をよけて寛いでいただくことができた。このツンデレめ。朝食を食べ過ぎることを予定していたのでこれが昼食である。うまいかどうかといえば、マスカルポーネとオレンジマーマレードの組み合わせは正義であり、マスカルポーネの脂肪質は餡の植物質をよく補うというほかない。360円。ご馳走様でした。

それからからくりで有名な妙立寺を訪ねた。ここは加賀三代藩主前田利常公が己の棺桶として作った寺であった。忍者寺などという甘ちょろい少年小説のような名称で片づけられない、徳川家に反旗を翻すための本丸であった。案内人に一つ一つのからくりを説明されるごとに公の切歯扼腕が伝わってくる。表向き首を垂れながらきりきりと背くその様、見おぼえがあると思ったら不良漫画の意地の張り合いであった。戦国時代はツッパリの抗争であったと思うと諸事が急に腑に落ちた。

からくりの説明は公式サイトを見てもらった方が早いが、自分が相当感心したのは上階から井戸を見下ろした眺めである。四方を壁に囲まれた小さな九龍城のような奇抜な構造が非常に面白い。これに限らずこの寺の興はいくら文章を読もうが写真を見ようが近い未来にVRになろうが現地を回らねばわからないものなので金沢に行ったら必ず訪ねるといい。なお出口付近のお守り展示のところに『妙立寺からくり攻略の書』という写真アイコン活字全て非常にデザイン的な葉書5枚付きの小冊子がたった500円で販売されているので是非お土産に買ってほしい。

タクシーで加賀刺繍imaiに向かう。自分は非常に針仕事が不得手なのでいっそこういうところで針の持ち方から教わったほうが良いと思ったのだ。明るく優しい先生に最初にデザインを、次に布と糸を選ぶよう勧められる。

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正式な手順では選んだ糸に自分で縒りをかけるところから始めるそうだが、昨今の情勢を鑑みてお弟子さんらしきお嬢さんが手早く済ませて下すった。その後先生はにこにこしながら布を張った刺繍枠を二個のクランプでがっしりと机に固定した。

そういう方法もあるのか!

布にはチャコペンで梅の形が描いてある。初心者はどうしても内側内側を縫ってしまうので外側を心掛けるようにと丁寧に指導された。一本どりを玉結びして左手で下から刺して右で受け取って上から刺す、それを繰り返してくださいとのこと。最後は色が同じところに一度下から出して糸目一つか二つくらいのところで上から刺す、それからもう一度下から出したところで切るとそれで止めたことになるという。

できあがりがこちらになります。

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大変あからさまに技術の向上過程が見えて我ながら愉快である。左は桔梗だが右は大分梅に近づいた。先生が随分ほめて下さったので針仕事に対する苦手意識が少なくなった。体験料は3000円で、指導の手厚さや先生のやさしさ、材料費などを考えるとずいぶん安いと思った。

それから近江町市場の東出珈琲店に行った。プリンに合う珈琲を見繕ってもらったところケニアを勧められた。プリンは底面硬く上面が柔らかくカラメルソースがだくだくで大変うまかった。私の理想のプリンの一つであった。

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それから夕食は相当勢い込んでとある大変良質な店を訪ねた。卵を酢につけただけで他は素のままという香箱蟹を出すようなところであった。唯一の不幸は、相席した二人の男性が自慢合戦を始めたという点にあった。俺はこんな仕事をやっているこちらはこんな案件をまとめた自分はこれほど亭主に無理を聞いてもらえる立場であると声高に言い合っている隅では、心づくしを味わうにも気もそぞろとなる。贅に飽きた人が鉢木を求めるような店よりも身の丈に合った加賀料理の店を選ぶべきであったかとも思ったが、手間と時間を誠実にかけた料理は大変に味わい深かったのでこれも勉強のうちと思った。

これで二日目は終わりである。