即興厨房

大船市場で野菜を大量に買い込んでええ感じのお総菜を一週間分作ってはブログに記録する人です。器は骨董屋でこつこつ集めたぐい飲みやお猪口です。美術展、本、たまの旅行も記事にします。好きな動物はチー付与のどんぐりです。

春鎌倉のあそびかた

朝ディモンシュでやたらうまみの強いペルーはサンペドロ・ブルボンのエスプレッソをいただいた後プリンパフェを注文した。こちらのプリンパフェはプリン、生クリーム、ジンジャークッキー、ハードなコーヒーゼリー、スポンジ、コーヒーゼリーというクリスマスと誕生日がいっぺんに来たような大変な代物である。うまいだけじゃなくアイスを使っていないので体が冷えないというありがたさ。

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うまいものを食べて内心小躍りしながら小町通りに戻り、何をしようか考える。鎌倉国宝館のお雛様の展示は終わったはずだがそのあと北斎と肉筆浮世絵展が開催されることを思い出しそちらに寄ってみることにした。ところで油断して薄着で来たもんだからどうにもこうにも寒くてたまらない。薬局で懐炉でも買って貼ろうかと思案していたが倭物屋カヤで改装前セールをやっているのを見つけ安く襟巻を仕入れられないかと覗いてみる。霜がかった灰色の薄い襟巻が1700円のところ3割引きで売っていたのですぐに着用する旨を伝え購入し首に巻いた。だいぶ温くなったので改めて八幡宮に向かう。

八幡宮では牡丹が見ごろとの看板が出ていた。見る価値はありそうだがまだ曇っていてどうにも暗い。国宝館を見物したころには晴れているだろうと踏んで後回しにする。一方で源平池にはヒドリガモやらユリカモメやらがいたので寄り道して写真を撮った。中望遠を持ってきたくせに一脚を持ってこなかったので藤棚の柱にうんと体を預けての撮影である。

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まずまず好もしい写真が撮れて満足したところで鎌倉国宝館に向かう。こちらの常設の仏像展示は東寺には及ばないが立体曼荼羅的なしつらいになっていて大変好きだ。入ってすぐのところにおわします宝冠釈迦如来坐像が大変美男子である。その隣の阿弥陀如来立像は小ぶりの蓮に片足ずつを載せていて少し不思議である。個人像という阿弥陀如来立像は蓮台の線描きが大変美しく衣文がなだらかで総論としてエロい。特別展の肉筆浮世絵もさすがの氏家コレクション、北斎の「大黒に大根図」の大根の葉の巧みさや「寿布袋図」の寿の文字のけざやかさ、「雪中張飛図」の雪靴の質感、「若衆文案図」のこちらを向きそうで向かない誘ってる感のあるまなざし、「三番叟」の笹、「小雀を狙う山かがし図」の鱗への執着と小雀の緊迫など見所満載であるし、磯田湖龍斎の「吹雪に悩む美人図」なんざ緋縮緬から覗く脛とかすかな右足指の反りが当時物の全力パンチラ感あるし、松楽斎眉月による「役者絵(かおとはな)」は素晴らしく色の残る巧みな優品だし、司馬江漢はいつもながら肉筆浮世絵なのに銅版画感が異常だし、たった400円でよくここまでよいものを惜しみなく見せてくれるものと感心する。堪能しつくして国宝館を出ると思った通り晴れていた。入口に回るのも面倒なのでお尻から牡丹園に入る。牡丹はマクロと近中で取り比べたが後から見ても大して違いがわからなかった。まぁ牡丹とは美しいものなので、その美しさにただ圧倒されておればよいのであろう。

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島の輝

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聖代

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黄冠

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連鶴

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島錦

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三往復して気が済んだのでようやく八幡宮を出た。段葛に沿って駅に戻る途中空腹に気づいた。ここで何かを食べたら節制がパァになりそうで迷っていたところキャラウェイが目に入る。この時間なので並んでいない。一度くらいは詣でておこうと入ってビーフカレーを注文した。ご飯の量はうんと少なく50gで頼んだ。それでも茶碗に一杯くらいの量が来る。味のほうは、なんというか、軽井沢辺りのペンションで夕食に出てきたら大変うれしいようなそういうたぐいの上等さである。皿に平たく盛り付けられたごはんにレーズンが三つ、レタスを惜しまずトマトを三切れ載せてイタリアンドレッシングをかけた小さなサラダ、ソースポットになみなみと注がれたカレー、薬味が四種という構成。とにかくやたら早く来ること、ごはん並は300gというがそれで860円という観光地基準をはるかに凌駕する値ごろ感、5分と待たせぬスピード感、過たぬ旨さが人気の秘訣だろうか。なかなかに満足して店を出て数軒隣のMom&Popという昔からあるミニチュアやら指ぬきやらアンティークなカードやら昭和の少女雑誌やら戦前の輸出用陶磁器やらを置いてある店をのぞいてみる。そこで石でできた高さ1センチほどの中国的東屋や建物が130円くらいの安値で売られているのを見つけて二つほど贖う。先日買った苔玉をそのうち植え替えるときの点景にしようと思ったのである。

ところで最近は鎌倉を行き過ぎる女性の着物姿がずいぶんこなれてきて楽しい。以前は雑なこともあったが今のお嬢さん方は銘仙風のモダンなものなぞもきれいに着こなしておられる。鎌倉を着物で楽しむ流の店が増えたために淘汰された成果であろうか。鎌倉の眺めがよくなるからどんどんやってほしいものだ。

おなかがくちくなって今度は少し足を休めたくなった。もう一度ディモンシュに行くかそれともミルクホールに行くかで迷う。ディモンシュの混み具合を確認したところ一つばかりテーブルが開いていた。しかし朝行ってまた夕に立ち寄るというのもなんだかしつこくて嫌われそうだ。一方で雰囲気が懐かしくなったので結局ミルクホールに行くことにした。しかしなんだかぼんやりと不吉な予感がする。それでも一度あの骨董的な雰囲気を懐かしむと他では代えられないので扉を押し開ける。喫煙か聞かれ、たばこは吸わないけれども喫煙のほうをお願いする。何しろ今どき煙草喫いもなかなかおらず、必然的に小さく仕切られた喫煙者向けの空間は余人がおらず、畢竟静謐が保証されているのである。カフェオレでも頼もうと思ったがディモンシュをやめた後ではどこのコーヒーを飲んでも負けである。ポットで来るのを期待してダージリンを頼んだらいつものエッグシェルデザインのティーカップに一杯が注がれたばかりであった。不吉な予感はこの無思慮なオーダーに対してであったかと思い知ったが、それでも静かな骨董的空間は満足なものである。満足といっても飲み物に満足をしたわけではないので、今日の収支を手帳に転記しミルクホールのニュースに目を通してお暇した。

今日の鎌倉散策はこれでお仕舞。