即興厨房

大船市場で野菜を大量に買い込んでええ感じのお総菜を一週間分作ってはブログに記録する人です。器は骨董屋でこつこつ集めたぐい飲みやお猪口です。美術展、本、たまの旅行も記事にします。好きな動物はチー付与のどんぐりです。

【底本は】本所深川弁当はうまいぞ。【鬼平犯科帳】

2020年8月13日から、東京駅、品川駅、上野駅、大宮駅で販売中の鬼平犯科帳弁当シリーズ、本所深川弁当とくめ八弁当。

製造は神田明神下に江戸前てんぷらと江戸前寿司の店を構え40年の神田明神下 みやび。江戸の味をイメージした弁当の調整にも定評がある名店である。

どこからどう見てもガチの匂いしかしない案件なので、都内に出た序に買ってきた。

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文庫本の縦横比をも意識したという初手からいろいろなものをわしづかみにしてくる懸け紙。冗長になるので写真は省いたが文庫背表紙も復元しているというこだわり様である。

懸け紙を外すとこう。

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ムラムラワクワクしますな。

懸け紙に記載された「お献立」には

深川飯(煮浅利)/茶飯(煮穴子)/玉子焼/人参/がんも/南瓜/ふき/蒟蒻/花麩/蓮根金平/さつまいも甘煮

とある。

では開けてみよう。

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葉蘭と経木の船皿からがちがちの拘りが立ち上ってくる。浅利のつやはどうだ。茶飯の青のりも美しいではないか。いいぞ、いいぞ。

では献立表の順に味の印象を。

煮浅利は佃煮にする手前の味わい、柔らかくしっかり味が滲みこんでいる。うまい。

深川飯には生姜のほか何か茶色く薄いものが炊き込んである。

穴子はいやらしい脂のない柔らかくさっぱりとした味付け。

茶飯はさらにさっぱりしている。この中で一番味付けが浅い。

玉子焼は甘い。他の弁当用の玉子焼きよりも玉子感が強いように思われる。

炊きもの。

人参は思いのほか固めである。煮込みすぎておらず好感のもてる歯ざわりである。甘い。

がんも。常の弁当であれば汁漏れを恐れるあまり煮汁を切りすぎてしまい中心部分がぽそぽそだったりするが、これはすごい。箸でつまんだだけで煮汁が滲む。煮含めた煮汁そのままを何が何でも弁当に入れてやるという強い意気込みを覚える。甘い。

南瓜も思いのほか固めである。火入れに気を付けないとすぐぐずぐずになるところを丁度良いところで止めている。甘い。

ふきは定番の翡翠色である。甘い。

蒟蒻は鹿の子にしてあり芯まで濃度勾配なくしっかりと味が滲みている。甘い。

花麩が入ると江戸の弁当らしさが際立つ。もちもちした食感がなんとも楽しい。甘い。

蓮根金平はごくかすかな辛さとおそらく良い少量のごま油からくるこくが良いアクセントになっている。いわゆるお惣菜の金平より味付けは浅い。甘い。

さつまいも甘煮は大変色鮮やかで蜜をかけていない大学芋というのが近いだろう。甘い。

このように、どれもこれもあの頃の江戸を髣髴とさせる手堅い旨さで、味わっていると隣で幻の平蔵さんが柔らかく勧めてくれているような気分になれる。

しかしここまでお読みいただいた方はお気づきであろうがおかず全部甘い。とにかく甘い。おそらく全部の味付けのベースが出汁+醤油+砂糖なもんでもう何もかも甘い。たぶん唯一砂糖を使っていないのは茶飯だけじゃないか。そのくらい全部甘い。

なんかこう、香のものとか入んねぇのかなとは思ったが、握り飯に香の物はついても仕出しに香の物はつかないのかもしれない。あるいはやはり江戸で弁当に入れるといえば佃煮であるのかもしれない。

この布陣を頂くと、今の弁当、例えば名代といえる崎陽軒シウマイ弁当などはよく考えられているということに気づく。味の甘辛濃淡がパレットのように色調彩度明度バランスよく配されているのである。

といってこの弁当がよろしくないのではない。実にこう、満足のいくものである。何しろ江戸の庶民の食卓は米と漬物と味噌汁くらいであったろうから、こんなに彩り華やかで、そうしてよく調整されていて、それぞれにふんだんに砂糖が使われているというのはご馳走として不可欠の要素だったんだろう。

数量限定販売とのこと、なんとか期間内にくめ八弁当もいただいてみたい。

またシリーズの第二弾も楽しみである。

 

なお今回私は品川の膳まいの店頭にゆき取り置きをお願いした。電話で取り置きが可能かは未確認であるが、取扱店舗は下記告知の通りなので各人参照されたし。

鬼平犯科帳弁当シリーズ発売告知

また弁当を調整した江戸料理の店は下記となる。

神田明神下 みやび