即興厨房

大船市場で野菜を大量に買い込んでええ感じのお総菜を一週間分作ってはブログに記録する人です。器は骨董屋でこつこつ集めたぐい飲みやお猪口です。美術展、本、たまの旅行も記事にします。好きな動物はチー付与のどんぐりです。

笹の葉さらさら

生物学を勉強し終わって、さて洗い物をしようと立ち上がったら、こころのうちに、優しい声の、七夕の歌が聞こえてきた。綺麗な若い女性の声で、それは別に幻聴ではなく、ただ、記憶として懐かしく思い出されたという類のものであった。

洗い桶に湯を張って食器の汚れを落ちやすくしている間、私はその歌に心を傾けていた。

ふいに、下の子どもは、どうしたって、今はもうこの世にいないのだという気持ちになった。どう言い繕っても多分彼はもういないのだ。色々と希望のような物語を形作ってみるけれど、やっぱりどうしたって彼はもう還ってはこないだろうということが、急に真に迫ってきた。

涙が薄く眼球を覆った。静かに流れる優しい歌声を覚えながら私は洗い物を終えた。私は泣くのだろうか、と思った。表面張力を超えた量の涙が分泌されるだろうか。私は座り込んで鼻を啜りながら零れ落ちる涙を指で拭い続けることになるだろうか。そうはならなかった。眼球を覆った涙は涙道を伝って鼻の奥に流れて行った。私は涙ぐみ鼻を啜りながらアミノ酸の構造を手帖に転記した。

これが私の写経である。