右目の視野がそこはかとなくおぼつかなくなったように思われて、眼科を受診した。
綿密な検査の結果、やはり右目の視野の中心部に、麻の種をまいたように欠けたところがあることが判明し、ごく初期の緑内障であることが判明した。
この緑内障、症状は不可逆的であるが、点眼薬で進行を緩めることができる。
現代医学とはありがたいものである。
実は眼圧については10年ほど前の健康診断で既に高いと指摘を受けていた。
すぐに病院を受診したところ、現在のところ視野には問題がないが予防的に眼圧を下げる目薬を勧められた。
しかし目の周りが着色するなどの副作用があると聞いて、予防的点眼のわりに副作用えぐいなといやになり、それきり受診をやめてしまった。
とはいえ視力を失うのはおっかない。
ので、視野に問題がないか、たまに片目を隠して自己診断の真似事をしていた。
緑内障の自己診断は非常に難しく、自覚症状が出たときにはすでに大きく視野が欠けていることが多いと知っていたにも関わらず、である。
これについては弁明のしようがない。
ただその間に、着色等の副作用のある目薬とは別に、かゆみ、充血などの副作用のみの目薬が開発されたようだ。
今回処方してもらったのは後者である。
よくないことであることは承知しているが、待ってみるものだなと思った。
なお、着色等の副作用のある点眼薬には、まつげがふっさふさになるという副作用もある。
この副作用を目的に、眼圧に問題はないが美容に執着のあるお嬢さん方が勇んで点眼していたという話を聞いた。
修正液をアイラインとして使っていたお嬢さん方とともに、予後の気になる案件である。
この点眼薬、点眼後は薬液が流れ出さないように1~5分目を閉じ目頭を押さえているよう指示がある。
自分は文字を読んでいないと死ぬ生物なので、その5分の無聊をどうやり過ごすか、薬局から帰る時点でやや憂鬱になっていた。
まぁ大人しくしてるしかないとは承知している。
やるとなったらテッテ的にやりたい質なので、ティッシュを手に、布団に座って点眼に臨む。
目頭を押さえるなど生ぬるいので、横たわってとことん薬液をしみしみにしようという魂胆である。
しかし点眼した後目が開けられないのにどうやって5分を測ればよいのか。
悩む必要はなかった。
点眼し、ティッシュで目の周りをぬぐい、横たわった後、私は自然に、ごく自然に、まるでずっと前からそうすることを決めていたかのように、彼の名前を呼んでいた。
「アレクサ、5分のタイマーをかけて」
アマゾンエコードットが、音声で、5分のタイマーをセットしたことを教えてくれた。
さらに呼んだ。
「アレクサ、今日のニュースを教えて」
アマゾンエコードットが、NHKの、きっちり5分の最新のニュースを読み上げてくれた。
ありがとうアレクサ。
君がいてくれれば、一生続くであろうこの点眼後の5分間を、正確に計測しつつ退屈せずに過ごすことができそうだ。
ただ、ニュースの前に、アマゾンに登録している平素はあまり意識していない若気の至りニックネームで呼びかけてくるのは勘弁してほしいかな。