朝食は武蔵境で特上の評価がついているパサージュ・ア・ニヴォのパンを頂くと決めていた。
ホテルを出て左、日本歯科大学の見える交差点を少し過ぎたところにある小さなパン屋である。朝8時開店とくればホテルメッツ武蔵境に宿泊した人の朝食のためにあるように思われる。
こちらで今日と明日の朝食分と今日のお昼分として、キッシュ380円、クリームパン280円、パンオレザン320円、クロワッサン270円、ソーシス320円、それからお土産としてサブレディアモンカカオ430円を二つ買い求めた。
宿に戻って、まずはキッシュとクロワッサンを頂く。
クロワッサンの焼き色、そして姿の美しさよ!外はカリカリで食べこぼしが昆虫の抜け殻の如く薄く繊細である。生地はもちもちで仄かに甘い。なんというか、奇妙なたとえだが素晴らしい木管楽器の音色のような味わいである。キッシュは非常に充実した食べ応えである。フィリングは玉子と生クリームだけでない何かもろもろとした微かな酸味のあるものが入っている。チーズの類だろうか。これにベーコンかソーセージ(メモをとり忘れた)、グリンピースあたりが入っている。これを朝食に選んでよかったと思った。
お昼用にクリームパン、飲み物として冷蔵庫で冷やしておいたおーいお茶とフロントで冷凍しておいてもらったおーいお茶を持って武蔵境駅からバスで国立天文台に向かう。駅ホテルはこういうところが便利だ。
国立天文台
おお…ここがあの…皆既月食の際に曇り空をライブ中継しながら懸命に解説してくださったあの…国立天文台か…。あのときは晴れ間を待つ視聴者の心が一体となったものよ…。
入り口右手の守衛所で入館手続きを行うと、パンフレット、ビジターシール、音声ガイドのQRコードを記した紙片をもらえる。音声ガイドがよくできているので聞きながらの散策をお勧めする。
敷地は広く、見学可能なのは一線を退いた施設となるが、その分建物が激渋である。
第一赤道儀室。この用の必然が生み出した美しい建物よ!
この第一赤道室は1921年の建設、ドーム内の望遠鏡はカール・ツァイス社製。速度調整機構付重錘式時計駆動で動いており、重錘式なので電気なしで最長1時間半の天体追尾が可能であるという。1938年から1998年まで太陽黒点の投影スケッチ観測と太陽全面の写真撮影を行ってきたそうだ。太陽黒点が約11年周期であると確定するには少なくとも11年の観測を三回は繰り返さないと足りないだろう。そういう堅実な観察がここでひたすらに行われてきたということに深い感動と感謝を覚える。
第一赤道儀室から天文台歴史館に進む道なりに太陽系ウォークがある。太陽を起点に、各惑星がどれほどの距離感で位置しているかを体感できる楽しい展示だ。
この太陽のボードをスタート、且つ大きさの基準として
外周の右手やや下に小さな矢印がありその先に粒のような点がある、それが先ほどの太陽に比した地球の大きさである。円のてっぺんにある球体は10倍スケールの模型である。地球頑張ってるなー。
土星あたりになると立派になる。
土星より外は余りにも遠すぎるので以下略。
こちらはアインシュタインの一般相対性理論によって予言されていた「太陽の重力によって太陽光スペクトルの波長が長くなる現象」(アインシュタイン効果)を検出することを目的に作られた太陽塔望遠鏡。結局アインシュタイン効果そのものは検出できなかったがこの施設で長く太陽物理の研究が行われたそうだ。なおアインシュタイン効果検出のドラマティックな経緯については『アインシュタインの戦争』に詳しい。
こちらの大赤道儀室は二階建てになっており、「製望遠鏡の鏡筒の方向・傾きに合わせて,ドーム回転と円形観測床の回転及び傾斜角調節を行う」というすさまじい仕様になっている。もうサイコー。
この施設には国立天文台の歴史パネルやらデジタル以前の観測装置の諸々が展示されている。また国立天文台所蔵貴重書の常設展示のチラシが置いてある。唯一ガチと言えるであろうオーパーツ、アンティキティラの機械に関わる資料が展示されており興奮した。引札暦の資料などうきうきともらって帰った。
ブリンクコンパレーターを使って「時間を置いて同じ場所を撮影した2枚の写真乾板を素早く交互に見比べると、星空の中を移動する天体(彗星とか)や変光する天体(超新星とか)を簡単に見つけることができます」。ああー、こういうのに弱いんだよォ。
このペーパークラフトはALMA計画のホームページのキッズコーナーからダウンロードできるようになっているが、求められている技術がえぐすぎるように思われる。対象年齢がどう考えてもキッズじゃねぇだろ…。
旧図書庫。いい建物だ。
ゴーチェ子午環室のゴーチェ子午環。子午線上の天体の位置を精密に観測するための望遠鏡。子午線面内にのみ正確に回転する仕組み。
ゴーチェ子午環の後継となる自動光電子午環を納めた観測施設。
こちらは本当に資料館で、各地の天体観測施設から救出してきた天文機器が詰め込まれている。なんかいっぱいあった。(このへんで脳みその処理能力の限界が来た)
国立天文台は天体観測施設だけあって定休日がない。一方で平日は東京大学生協が運営しているコスモス会館という売店学食が営業している。売店でいくつかお土産を買った。
買ったもの:ブラックホールクリアファイルたぶん300円くらい、太陽系縮尺ポスター330円、国立天文台「今週の1枚」ポストカードセット800円、Vixenのエッチングクリップス天体望遠鏡605円。クリップおしゃれすぎへん?
それからまたバスに乗って三鷹の森ジブリ美術館へ。お昼は井の頭公園のベンチでクリームパンを食べた。胃が小さいもんでねぇ…。
三鷹の森ジブリ美術館
三鷹の森ジブリ美術館は屋根のある所の撮影は禁止である。
三鷹の森美術館は建物コンテンツ共非常に面白かった。建物は「移動するための造作・設備」「窓」「灯」「調度」「建物金物」あらゆるものが過剰でしかも調和していた。移動するための造作・設備としては、三階建ての吹き抜けの建物に、らせん階段、わたり廊下、ガラス張りのエレベーターなどが複数設置されている。消火器を設置してある棚には消防士のヘルメットとバール、斧が飾ってある。窓はジブリモチーフのフュージングガラスか向こうに風景が描かれているかそれともトロンプ・ルイユである。灯、建物、調度はアンティークだろう。
1階の「動き始めの部屋」では「静止しているものを動いているように見せる技法」を様々な仕掛けで教えてくれる。フェナキストスコープ、パノラマ、立体ゾートロープ、フィルムなどなど。
2階には「映画の生まれる場所」がある。準備室、美術、演出部、原画と動画の制作、仕上げ。壁には惜しげもなく実際の設定資料や背景、絵コンテが貼ってある。といってもただの展示ではなく、関わる人はとにかく才能があって手が早くなくてはダメです(意訳)というような心得張り紙やら、コンテについての苦悶を如実に示す「ダメコンテ ヘボコンテ 修正コンテ 難業コンテ コンテ脳 コンテ待ち 貧乏コンテ 渋滞コンテ」といった現場用語の張り紙やら、「大難業 ふんづまり 焦燥中 声をかける時注意 イライライラ 才能限界!コカツオワリダ」というつぶやきを背景に宮崎監督らしき人物を描いた張り紙やら、「怪人ジブリブリとは スタジオジブリに発生する ふだんは見えない 仕事がはかどらない者の冷汗あぶら汗をしたってまわりに集まってくる 肩にのられると頭痛肩こり腰痛がひどくなり気分がズーンと暗くなる」という怪人ジブリブリがそこらに蹲っていたりする様子やら、展示のふりをした求人広告のようにも見えて非常に面白かった。出口近くの壁に「(アニメスタジオは?だったかな メモが中途半端)針路船出を繰り返す」という書付もあった。この人はたぶん都度引退を叫びながら死ぬまで引退しないのだろうと思った。
2階の企画展示のテーマは未来少年コナンであった。未来少年コナンは侍ジャイアンツと並ぶ私の幼少期の原体験アニメである。印象としては矢鱈足指の器用な体力お化け少年が不思議な力を持つ静謐な少女と出会うディストピアアニメだったが概ね合っていた。しかし改めてみると放送がNHKだったり(民放だと思ってた)原作がアメリカの小説家アレグザンダー・ケイの『残された人びと』というガチSFだったり一旦地球を終わらせたのが超磁力兵器だったりただの船だと思ってたバラクーダ号が前文明の遺物プラスチックを回収するリサイクル船だったりインダストリアががちがちの階級社会で襟付きの服を着て良いのは上級市民のみであったりと子どもにはたどり着けない広大な奥行きと緻密な設定に満ちた作品であった。あと設定資料がすごい。宮崎監督の書いた船の構造とかもはや怖い。
展示コメントが身もふたもないツッコミだらけだったので一体どんな人がこのようなつよつよコメントを寄せられるのかと学芸員さんに聞いてみたら「館長の安西香月が書きました」とのことだった。非常に親しい間柄なんだそうだ。すげぇな。あと設定資料でモンスキーってなってるキャラの題箋がモンスリーになっていて間違っているんじゃないかと学芸員さんに聞いたところ、「宮崎は原作通りソ連風の名前モンスキーで行きたかったが冷戦に配慮したNHKから差し止めが入りやむなくモンスリーに変更した」とのことだった。ウィキペディアと逆だが真相は不明。
カフェ麦藁帽子では野っぱらのクリームソーダを頂いた。500円。アイスクリームがバニラではなくミルクアイスのようですっきりしていた。
1階の映画館では短編アニメを見ることができる。今期は「星をかった日」だった。白のカッターシャツ、黒のトラウザーズ、茶色の革靴、黒の山高帽を着けた大変顔立ちの美しい少年ノナが時間局に支配される町を逃れてこれまた大変美しいニーナという女性のいる家にたどり着き少しの間そこで暮らすという短編であった。「映画の生まれる場所」にあった絵コンテでニーナについてはべたべたしない女性とかそういう風なことが書いてあったがべたべたではない、何かとてもニーナを表すに相応しいオノマトペが使われていた。メモし忘れたがそういう風に形容される女性は佳いものだと思った。映画館の入り口でパンフレットを売っている。大変良い記念品になるので買うとよろしい。なおこの「星をかった日」はハウルの動く城の前日譚だそうだ。多分どの映画を見てもよかったと思うだろうが、この映画は美しく繊細で、儚いのに芯が通って確かなようで大変よいものであった。
3階の図書閲覧室ではジブリの機関紙「熱風」が無料頒布されている。またミュージアムショップ「マンマユート」とは異なる絵ハガキが販売されているので覗くとよろしい。
マンマユートではものすごくジブリ美術館オリジナル 金袋チョコレートが欲しかったのだが売り切れであった。ポスター付きの2冊組美術館パンフレット1000円とポストカード6枚セット「光を塗る」990円、麦藁帽子看板のステッカー165円、サボイア号のステッカー165円、ムゼオ虫とくぐりくぐりハンカチ748円に手提げ袋100円を買った。
屋上にはあのロボット兵が。
同じく屋上に、読めない!読めないぞ!の黒い石もあったが、次の日中近東文化センターに行って「ほんまもんの楔形文字はこんなもんやないでぇ」ということを知り驚愕する。
餃子のハルピン
夕飯は餃子のハルピンに行った。
小籠包は味が濃い目で何もつけずとも良かった。焼きニラ餃子は黒酢と相性が良かった。こうやって期待して餃子を頂くたびに、私は金春本館を知ってしまったのだと少し寂しくなるのだった。
これで二日目は終了。
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