この展覧会の素晴らしいところは原画の下に下絵が展示されていて比較できるところである。
こう並べてみると唇の色艶や目元の濃さにより下絵の方が蠱惑的に思われるが、一方で原画の描線の確かさ、また彩色特にぼかしの技術のすばらしさにも圧倒される。
下絵のちょっと強いまなざしがいいなぁ。
こちらは原画と下絵との差分が結構ある。徒競走者が合体してたり、鉄兜がひっくり返ってたり、飛行機が増えてたり、埋まってる頭部が一つ減って刀傷が出来てたり、金髪ブルマ少女と解剖学的児童人形が並んだり。
60年代のレコードジャケットあたりに元ネタありそうだけどものすごく美しい。
こちらは右下のエヴァ・ブラウンと思しき婦人が原画ではやや大きく唇を開いていたりお召の肩が破れていたりおそらく涙でマスカラが流れていたりするのだが
下絵と来れば目元の彫や輝ける金髪がデッサンのようで何とも美しく(ちょこっと実験人形ダミー・オスカーに似ていると思ったのは内緒だ)
一方で雲のぼかしは日本画のように芸術的であり
波打つ海はざわめく心の紋様のようである。
尾翼はよいものだ。
少年の黒眼帯が白眼帯になってちょっとやさぐれ度が下がったり電車の車両番号がなくなったり電車の横の人物がいなくなったり地面がひび割れたり背景の建物が変わったり。
この電車の端正が誠に好きなのですが如何でしょうか。
しどけなく眠る少女のまつげの深さ、頬にかかる髪。
おやおや坊ちゃん、脛にお怪我を。
まぁそうでしょうねぇ、というオマージュ高畠華宵。平凡社の別冊太陽の『絵本名画館高畠華宵 美少年・美少女幻影』38頁の「少女画報」(東京社)挿画に酷似しているがお召の柄や帽子が異なっている。丸尾末広先生の描く人物のまなざしは決然としているため高畠華宵先生のけぶるような気怠さに寄せようとしても何かを企んでいるように見えてしまうのが面白い。
さもあらんというオマージュ伊藤彦造。こちらも別冊太陽の『熱血少年画譜 山口将吉郎 伊藤彦造 樺島勝一』で見た覚えがあるが手元にない。丸尾末広先生の筆先から滲み出る明朗な露悪趣味が伊藤彦造先生の謎めいた憂鬱に寄せるのを妨げているのがこれまた面白い。
何とぜいたくなことに一作品まるまるの原画展示があった。2000年8月『新世紀SM画集』収録『無神経かさねが渕』。これがまぁ無神経に勝るものなしというサイコーの外道物語。
この何とも言えぬ淫猥な手つきこそ丸尾末広先生の真骨頂である。
こんな和やかな一家団欒もございますが
「気のせいよ」「そうかなぁ」以下次号!
一喝されて帰っちゃうし
無神経さいつよ。
最後は1998年10号から1999年20号までヤングチャンピオンに不定期連載されていた『笑う吸血鬼』から。
というわけで、大変充実した展覧会でございました。
今回の展覧会グッズはこちらで買えるもよう。
ランキングに参加しています。面白かったらご褒美にクリックお願いします。