即興厨房

大船市場で野菜を大量に買い込んでええ感じのお総菜を一週間分作ってはブログに記録する人です。器は骨董屋でこつこつ集めたぐい飲みやお猪口です。美術展、本、たまの旅行も記事にします。好きな動物はチー付与のどんぐりです。

【ほんのり】「きっとうまくいく」の感想【ネタバレ】

2009年製作のインド映画。ムトウ踊るマハラジャが面白かったという話を職場でしたところ視聴を勧められた。学生とはいえアウトなんじゃねぇかなーと倫理的に反発を覚えるようなエピソードがいくつかあることくらいしか欠点が見つからない素晴らしい映画。主役のアーミル・カーンは「夢を妥協してはいけない、夢を実現するために妥協することはあっても、夢そのものを妥協してはいけない」 をモットーとする作中の人物と極めて親和性の高い俳優。撮影当時44歳でありながら若さ溢れるロジカルなバカ学生を違和感なく演じきった。二回挿入される長々としたインド映画特有のアレも「いや、いまどき鎌倉来て鳩サブレ―買わなくてもいいんじゃねぇの?でもまぁ鎌倉らしいっちゃらしいよね」みたいな感じの爽やかな諦観を感じさせてくれるからよかろうなのだァー。しかしこの映画で最も優れているのがインドの教育問題への切込み方である。ITはインドのカースト制度の中に規定されていない職業だという。低いカーストにある人間が逆転を企図した場合の唯一の選択肢がITなのである。映画の中での学長の扱いには徹頭徹尾疑問が残るが、このような描かれ方でなければたぶん別の映画になってしまっていたであろうからこれでよいのだろう。学長は個人ではなくインドを取り巻く圧力の象徴であり、それらはおそらく罰されるよりもただ改心されるべきものなのだ。ラストで美しいインドの山間で重要な二人が再会するが、電気も通っていないだろう学校で繰り広げられる科学的おもちゃ箱のような光景と相まって、監督はきっと、インドにしかないこの風景を視聴者に見せたくてこの映画を撮ったのではないかとさえ思われた。

物理的に長いが、ゆるぎない主題が最初から最後まで根太く通っているので何回かに分けて視聴しても全く問題ない。

我々の誰もが「きっとうまくいく」わけではないことを知っている。しかし、きっとうまくいくという言葉を人生における一つの銘として設定したうえで、主役であるランチョーと同じように、常に思考を止めずできることをやりつくせば、起こったことを自身が十分にかかわった事象としてとらえなおすことができるようになり、最後には胸を張って受け入れられるようになるのだ。そのような経験を一つ一つ積み上げた結果、人はきっと、もう一度、自分のものとしてこの言葉を口にできるようになるんだろう。ーー”Aal Izz Well”。

 

きっと、うまくいく(字幕版)

きっと、うまくいく(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video