あいにくの曇天だったが、それでも工夫すればそれらしく紅葉は撮れるものだ。
久しぶりに休日が続いたので、鎌倉に行くことにした。鎌倉の人出は可もなく不可もなく、しかし小町通はやはり古い店が淘汰され食べ歩き売り切りの出店が増えているようで、少し切なく目をそらして歩いた。新しいなかで好もしい部類に入る鎌倉八座さんに立ち寄ったところ、来年干支のおみくじが売られていた。今買い置いて来年開けてくじを確かめるという運用でも問題ないかを確認すると、そのような使い方でも問題ないというので買い求めた。
招福干支みくじ 丑白 495円(税込み)
鎌倉の多くの店が休みとなる水曜を外して木曜にしたが、和紙屋の社頭さんは木曜が休みであった。何か美しいものを見たいという気持ちが心の底に揺蕩うていたが、吉兆庵さんの木型と菓子皿の企画展は、きっとよいものなのだろうし見れば見たでうんと面白いのだろうがなんとなく興が沸かず通り過ぎてしまった。八幡宮はほぼ冬枯れていた。出店も少ない。この季節に大祓をやっていて商魂たくましいなどと下世話なことを考えてしまったがよくよく思えば感染症の蔓延する時節の人心によく呼応するものである。人型の紙を用意するのも茅の輪を作るのも手間だろうに、そうしてそれに対する賽銭はそう多くはないだろうに、ありがたいことだ。
そうそう、その手前にある今は使えない手水屋、八幡宮さんもちゃんと花手水にしておられた。気づく人が少ないようだったが実に見事なものである。鎌倉にお越しの際はぜひ見てやってください。
今は御籤も筒箱をやめ、自分で御籤を取る方式になっていた。そのうち筒箱も戻ってくるだろうか。
国宝館で何か美しいものが見れるかと思っていたが生憎展示の端境で休館であった。
古物商の游古洞でぐい飲みを物色する。なかなか好もしいのを見つけたので買った。
どちらかが500円でどちらかが300円である。値札をはがした途端に忘れた。
御成通りに回ってRondinoが閉店したことに驚愕する。
由比ガ浜通の公文堂書店を贔屓にしているつもりなのに木曜休みなのを毎度忘却してしまい仕方のないことだ。
ずいぶん昔に木屋で買った包丁がひどくさびてしまい見ないようにしていたが牛刀より切れ味が良いことに気づき恥を忍んで研ぎに出そうと思っていた。しかし本格的なところに出すのは初めてなのでまずは期間を打診しようととぎ菊一さんに行き預かり期間を尋ねる。今のところ一週間程度とのこと。値段は状態にもよるだろうから聞かなかった。
輸入食品のアジア商会でスパイスハーブ類を買い込む。職場の料理好きと半分こできることになれば自然買い方が強気になる。クローブ、キャラウェイ、タイム、オレガノ、パセリ、セイジ、ローズマリー、スターアニス、バジル、タラゴン、フェンネル、それぞれ5gで100~200円というふざけた値段である。品質は美味いものを食べつけている鎌倉夫人のお眼鏡にかなっているのだから私ごときが言うまでもない。
段葛に戻って丸八通りのミニチュア専門店イクスタンに寄ってみかんや座布団を買った。
座布団400円、みかんは80円である。珈琲にみかんが合うかは審議しない。
それからどうにも時間があったので北鎌倉に行くことにした。何千回と電車で通っているが下りるのはたぶん大学来である。曇天の北鎌倉は全体静謐であった。鎌倉五山の一である建長寺に行ってみようと思う。道すがらビーフシチューの名店去来庵の看板を見つける。人出がないためだろう、今は喫茶のみの営業とある。少し足を休めたいと思ったころでもあり、値段も知らず蛮勇に挑んだところ、しとやかな女将に奥の間に招かれ恐縮する。多分一番庭の眺めのよい部屋だ。寒かったでしょうと温かいほうじ茶を出される。出来立てというプリンと抹茶のセット税込み1100円というのはしつらい込みで手ごろだろう。
庭を歩いてよいか尋ねたところ踏み石のあるところであればよいとのこと。
踏み石一つがこれである。なんでも女将の曾祖父が趣味で建てた別荘とのこと。永く在ってほしいがもつか、どうか。
男子学生をかき分けながら建長寺にたどり着いた。この段で初めて鎌倉学園の在所を知る。建長寺の総門は立派であり、三門は更に重厚である。つゆ知らず下を通ったが実は三門の二階には五百羅漢がおわすという。そんな有難いところをぼんやりとただ行き過ぎてしまった。かながわの名木百選という柏槙はなるほど見事である。こういうのが盆栽家の理想なのではないか。順路通りに歩いて得月楼というところでゆかりのある品の展示を見る。脈絡のわからない仏像が四点展示されており、そのうちの一つが肉髻なく顔が穏やかに四角く異形である。番をしていた婦人に聞いたところでは、これら四点は亡くなった仏像蒐集家の奥方が寄贈したものであるが、その時点で由来は全く分からなくなっていたとのこと。こういう縁は面白くまた味わい深いものだ。他いくつか近年の作が公開されていたが、私はどちらかというと、絵を描きなれていない人が事故的にモノしたであろう仙厓もどきの方がずっと好きである。
あなた人を何人かお斬りになった後で仏門に入りましたね、そうでしょう?
方丈の外廊下から見える唐門はなるほど重要文化財であろう絢爛さである。
帰路夕やみを振り帰ると、地蔵菩薩がこちらを見据えておられた。
鐘楼の説明書きを見て驚愕した。
な、夏目せんせぇーッッッ!!!
その鐘楼がこちらになります。
もうどこの社寺も閉まっているだろうと思いながら駅に向かって歩いていると、人を招くようでありながら案内の出ていない不思議な参道があった。上がってみると東慶寺であった。婦人が庭を手入れするその鋏の音が聞こえるだけの静謐な空間である。
それからいろいろ時間をつぶしてようやく予約していたビストロヒュッテという大船の店に行った。ここはワイナリーによるぶどうジュースが白赤ロゼと置いてある下戸にも優しい店である。大勢のときには下戸もしゃれたものが飲みたくなるもので、そういうときにはこういう用意が大変ありがたいのである。
alain milliatのJUS RAISIN ROSE。600円。
同じくalain milliatのJUS RAISIN ROUGE。600円。
とはいえ今回は一人なので足並み揃える必要はない。ただ純粋に美味いから飲むのである。
やげん軟骨と色々キノコのマリネ、ハーフポーションで300円。
パテドカンパーニュ、ハーフポーションで500円。ソースもさることながらパテのエロティックな脂肪質が実に美味い。
白子ナーラ。タラの白子、クリームソース、タリアテッレときたらうまくないわけがないのだ。罪深い滑らかさを十全に堪能してハーフポーション1180円。もともと1480円のメニューだが白子は通常と同じ量を使うことになるためこのお値段である。贅沢度が増した仕立てといえよう。
牛ほほ肉のワイン煮込み、1580円。これが! すごく! うまい! こんな立派な塊を! こんなに柔らかく! 味わい深く! 調理してくれて! たったの1580円! ありがとう! ありがとう! お嬢さんは! 肉用ナイフを! 渡してくれたけど! スプーンで! ほどける! 繰り返す! スプーンで! ほどける!
キャラメルのムースイチゴアイス添え。650円。イチゴアイスがねぇ、ものすごくイチゴ感があって、あとトルコアイス的な嫌味のない粘りもあってねぇ。キャラメルのムースはそれは美味いんですけどね、イチゴアイスが添えじゃねぇんですよ。もうがりがり主役級のツートップ。好きぃ。
今日もよい休日であった。