漸く会得した。
肉を一晩漬けこむのでいただく前日に仕込みを始めよう。
【材料】
鶏むね肉 1枚から好きなだけ
【調味料】
塩こうじ 大匙2-3杯×鶏むね肉の枚数
京風出汁の素または希釈用めんつゆ 大匙2-3杯×鶏むね肉の枚数
【使う道具】
出刃包丁など肉叩きの代わりになるもの
ボウルなど調味料を鶏むね肉に和える際に器となるもの
ポリ袋
100均のでいいのでキッチンクリップ
幅30cmのサランラップ40cm程度
4.5リットル以上の保温調理なべ
料理用デジタル温度計
スマホで構わんのでタイマー
【作り方】
- 鶏むね肉から皮をはぐ。気持ちに余裕があれば黄色い脂肪ももぐ。
- 肉を観音開きにする。
- 裏表を出刃包丁の背または肉叩きなどで裏表格子状に淡々と叩く。繊維を破壊することが目的なので表面は荒らさず内側の組織にダメージを与えるように心掛けるのだッッッ!!! Singing In The Rain などを歌いながら叩くと精神が非常に殺伐とするのでやらないように。
- 肉に調味料をもみ込む。
- ポリ袋に入れ口をキッチンクリップで止める。
- 一晩冷蔵庫で寝かせる。
- なんかこう、気分の問題だが、ピックル液的な保水効果を期待して調味開始前に水を200mlほど入れて更に寝かせる。加水は肉に十分味が染みた後に行うのが望ましいのでうちでは調理の1時間~2時間前に行うようにしている。この工程がどれだけうまさに影響しているかは正直わからんが今美味しくできているものの作業工程を検証のために外す気にはならんので現状を記録した。
- 保温調理なべになみなみと水を入れ沸かす。
- サランラップを広げる。
- 塩こうじと麺つゆのおかげですでにうまそうな匂いを放っている鶏むね肉を広げサランラップごと筒状に巻きキャンディ状に包み両端を止め結びにする。
- 湯が沸いたら差し水をし水温を90度に下げる。もちろん沸きかけたところで温度計を差し入れ90度になるのを待っても構わない。ここで重要なのは90度からスタートすることだけである。
- キャンディ包みにした鶏むね肉を投入する。複数調理の場合は縦に入れた際の肉の断面の面積が鍋の底面積の2/3を超えない程度にする。それ以上入れるとたぶん水温が下がりすぎて熱が通り切らない。
- 蓋をしタイマーを30分にセットする。
- 30分経ったら一旦鶏肉の位置を変え再度タイマーを30分にセットする。一本調理だったらこの工程は必要ないと思われるが複数調理の場合熱の入り方を均等にするために重要な作業だと思う、たぶん。
- タイマーが鳴ったら肉を取り出す。
- 肉汁が落ち着くまでほっとくといいという民間伝承に従い粗熱が取れるまで皿に置いとく。
- 触っても「あちっ! 」ってならなくなったら切り分けて好きに食べるがよい。そのまま冷凍するもよかろうなのだぁーッッッ!!!
【このレシピのいきさつ】
毎週末サラダチキンを作り続けてもうどれだけ経ったろうか。最初は時間も温度も計測せず塩こうじだけで調味して雑に作っていた。しかし稀に奇跡のような味わいに出くわすことがあった。それはよく調整されたロースハムのように柔らかく滑らかでしかも十全に加熱された危険のないものだった。私はその偶然を必然に変えるために長い時間を費やした。そうして到達したのがこのサラダチキンである。
さて、加熱については柴田書店の『おいしさを作る「熱」の科学』に助けられコラーゲンを硬化させないためには肉の中心温度を63度以下に保たねばならぬという真理にたどり着いた。一方で味付けについて…塩こうじというのは尤もらしい選択ではあったのだが、実のところ砂糖と塩の比率をまめまめしく計測するのが面倒になっておそらく近しいであろう比率の簡便な調味料を採用したというだけの理由だったため、いささか控えめに過ぎる味わいに常にいくばくかの物足りなさを覚えていたのである。しかし私は長く内心の不満を言語化しようとせずただ漫然とシーザーサラダドレッシングやマヨネーズはたまたポン酢などで当座のごまかしを重ねていた。
加熱の真理にたどり着いた頃、ふと目についたのが常用している京風だしの素うすいろであった。胡椒、ローズマリー、タイム、柚子胡椒、山葵山椒、生姜、梅肉…これまでに塩こうじの奥ゆかしさを底上げせんと試した様々な調味料はその時々の余興たりえたが所詮わき役、向こうを張るには至らなかった。しかしだしの素を添加したところ、塩こうじに足らなかった鰹節の香りの花が咲き、漸う私のサラダチキンは完成に至ったのである。
イジョー。