9時から病院の用事があり、そのあと特段の予定もなかったので鎌倉散策を思いつく。萩原精肉店を覗いたら牛すじ肉が残っていたので購入、しかしながら持ち回ると悪くなりそうな陽気だったので取り置きを頼んだ。鎌倉廉売に立ち寄る。人出多くこじゃれた野菜多く大船寄り高いので物見で一めぐりして終わった。SWANYへ。なんと全品二割引セールの最終日に当たる。面白いものはないかと探したところウィリアム・モリスの意匠のビニールコーティング生地52㎝×30㎝390円のところ290円に値下げされておるものを見つける。以前からA5サイズのブックカバーの構想があったところ丁度良いのでこちらを使うことにした。迷った挙句三種を買い、レジに行ったらここから更に二割引きというのに驚愕する。なかなかに得したが更に1000円以上の購入で好きな型紙をプレゼントするというので縫物の好きな知人に恩を売ってやろうとあと三百円分の手縫い用の糸を買った。型紙はずいぶん迷って小さな鞄用のものを貰った。後で確認したところ友人はすでにその型紙を持っていて作ったこともあるとのことだった。残念ではあるが彼女のセンスの読みが当たったともいえる。そのままコトリ文具へ。一見文学的な少女二人があまり文学的ではない調子で文具を評しているのに閉口して店を出る。そのまま大した当てもなく歩いていると大くにという和菓子屋に行き当たった。子どもに団子でも買って帰ろうという気になり御手洗を二本もらう。序に店でいただけるか尋ねたところ了承されたので何か面白いものはあるか聞くと季節の名物の葛饅頭がいましがた売れてしまったとのこと、申し訳なさそうにしているのでかわりに水羊羹をいただいた。特段面白いところもないがつまらぬところもない、ただ涼やかで夏らしい水羊羹であった。通りがかった時に妙齢のご婦人連が集っていた日進堂というパン屋に立ち寄る。いかにも懐かしいパン屋である。色々な色を詰めたコロネが並んでいる。レジの前にはとりどりの大きさ形の揚げパンがある。名物は何か聞くとラムネコロネと激辛カレーパンと教えてくれたように思う。それでそれを買った。次の日子どもと半分ずつにして食べたところラムネコロネはなるほどラムネの味をした水色の餡のようなものが詰まっていたがおいしかったかというとよくわからない。カレーパンはカレーパンであった。甘食230円も面白そうだったが次に見送った。一服しようとBAHATI CAFEに入る。ゲストハウスの一階で受け付け兼喫茶をやっているのだという。余人がおらず居心地がよさそうだったのでコーヒーを頼もうと思った。せっかくなので自分では作らないものをと思いカフェオレかカプチーノで迷う。カフェオレは牛乳とコーヒーだと思うがカプチーノがよくわからない。店の人に聞いても曖昧である。カプチーノは牛乳を泡立てたやつですよねと聞くと、いえ、カフェオレも泡立ててありますよという。よくわからなくなったのでお勧めを聞くと曖昧そうにじゃあカフェオレをというのでそれでということになった。カフェオレは特段うまくはないが悪くもない。居心地は実にいい。書きものにちょうどいい机の高さ、少しまぶしいデスクライトの角度を好きに調整したりしながら、次の客のための部屋の支度のためにせわしなく行き交ういかにも働き者らしい女性二人の会話を聞くともなく聞いていた。
鎌倉に寄ったらロミ・コンフィチュールの季節のクレープで小腹を満たすことにしている。今の季節はレモン&蜂蜜バターのようだ。清冽な酸味とバターのコクが心地よい。生地はいつもながらもちもちでいつもながら最上部が垂れてきて食べるのに苦労する。包みの底にたまったレモンバターが惜しいので傾けて飲み干した。
今年は確かまだ八幡宮に詣でていなかった。どうせ今度も行かないだろうと思っていたが、遠目に七夕の飾りの出ていることに気づき立ち寄ってみる気になった。向かう途中で侍気分と銘打った看板を見つける。頓智の効いた戦国物を扱っている粋な店であった。店の主人からおよそ一通りの商品の説明を受けて出てその足元に遺跡があるのに気付いた。なんでも北条の屋敷の跡だという。ここらは掘るとどこもこんな感じですよ、という主人の言い様にひどく感心した。
それからようよう八幡宮に向かった。鳥居に七夕のぼんぼりやらが飾られているのだがどうも仙台の真似事のようで大して感心しなかった。牡丹園はこの端境期にはさすがにネタが尽きたと見えて100円の見物料でただ池の周りを散策できるようになっていた。
静謐が欲しくて百円を払って散策の権利を買った。いつも撮らせてもらっている美人の牡丹連が今は葉ばかりである。ああこれは私の特に気に入りの美人だなどと愛しく思いながら源平池をゆっくり巡った。その途中に背高く鬼百合が咲いていた。少し撮ろうかと思ってカメラを出したところ黒揚羽が飛んできた。こういうことがあるから鎌倉はありがたい。
それからようよう本殿に上がった。昨年までは見なかったような稲荷専用の鳥居の絵馬が500円で売っている。相変わらず商魂たくましい様子に遠くから感心した。
八幡宮を下って小町通に向かった。道すがら何をしようという気にもならないくらい人が混んでいる。これで平日なのだから土日祝日など身動きもできないだろう。社頭で少し和紙を見る。それからひさごで花を見る。時計を見るともう二時になっていて、夕方の届け物の予定に案外近くなってきた。少し時間をつぶそうと思って、久しぶりにミルクホールに寄る。禁煙か喫煙かを尋ねられた。禁煙は家族連れで賑やかである。喫煙の区分を見せてもらうと誰もいない。これ幸いと喫煙席の隅に陣取ってウィンナコーヒーを頼んだ。このコーヒーのクリームが咀嚼しないと不可ないくらい密度が高くて驚いた。思わぬデザートがおまけについていたようで随分得した気分になった。
書き物をしたり少し音が大きすぎるように思えるジャズに耳を傾けたりしているうちに待ち合わせに近い時間になった。コーヒーを飲み干して二階のギャラリーでやっているささめやゆきという人の個展を見物して店を出た。帰りに牛すじを取って帰るのを忘れなかったのは幸いだった。